第42回「天海のシルクとボールのサプライズ出現」

石田隆信

第36回で「天海の空中からシルク」を掲載しましたが、今回はその進化形です。裏表をあらためた右手から突然シルクが現れ、そのシルクと右手をあらためた後にビリヤードボールが出現します。ボールを出現させる前のシルクと右手のあらためは、第39回「天海のシルク・プロダクション」での方法の一部が使われています。さらに、ビリヤードボールの出現の代わりに、ゴムボールを使ってシルクを増やすことにも天海氏は使われていると追記されていました。

これは1959年のGenii誌12月号に”Surprise Silk And Billiard Ball Production”として解説され、1974年の”The Magic of Tenkai”にも再録されています。「天海の空中からシルク」が1974年の天海の本に再録されなかったのは、進化形の今回の方法が解説されていたからのようです。以前の「空中からシルク」では「いくつかの工夫と、かなりの練習が必要です」と書きましたが、今回はかなり改善され楽に行えるようになっていました。

以前の方法では、ループにした黒糸の両端に右親指と人差し指を入れて、その中央に丸めたシルクを取り付けていました。この状態でシルクを隠したまま手の裏表を示すのは楽ではありません。今回の方法では、ループの一端に丸めたシルクを取り付けています。ループの反対側の端に親指を入れて、糸を人差し指と中指の間を通して、中指の裏を通過させ、中指と薬指の間を通してシルクが手掌側になるようにしています。(上記イラスト)

右向きとなり(演者の左側面が観客側に)、右手を肩の高さにあげて手の裏側を示します。手掌を客側へ向けつつ、薬指と小指をシルクの前面に出すと、糸が人差し指と中指の間を通り、後方でシルクがぶら下がった状態にして隠すことが出来ます。正面を向きつつ、シルクを手の中へ持ってきて、シルクに巻きつけた糸を切ってシルクを出現させます。ビリヤードボールを持っている左手でシルクの上側の左端を持ち、右手は右端を持って、シルクを広げて示します。

右手はシルク端を離し、左手に持ったシルクを右手の親指と人差し指の間から手掌側の前方へ引き出します。右手からシルクが外れる前に親指と人差し指でシルクを押さえ、中薬小指をシルクの前面へ持ってきます。親指を離すとシルク端が人差し指と中指に挟まれて手掌側へ突出している状態になります。この端をボールを持った左手でつかみ取る時に、ボールを右手へ渡します。右手首を返して手背が客席を向くようにした状態で、左手はシルクを右手から引き出します。この後で右手からボールを出現させます。

ビリヤードボールの代わりに数枚のカラフルなシルクの出現は、シルクを詰め込んだゴムボールが使われています。このことに関する解説はありませんが、1974年の”The Magic of Tenkai”では、今回の作品のすぐ後に「天海のシルク・プロダクション」の作品解説へ続けていました。つまり、それを参考にして下さいとのことのようです。その場合には右手だけでなく左手のあらためも行われ、その後でシルクを持っている右手から別の色のシルクを左手により数枚取り出すことになります。

この解説はジェラルド・コスキー氏ですが、15のイラストは天海氏により描かれています。このイラストは2枚の正方形の用紙に大きく分かりやすく描かれていました。このイラストを見ているだけで方法が分かります。これが掲載された1959年12月号のGenii誌を見ますと、1ページに1枚ずつ正方形の用紙が大きく印刷され、見開きの2ページの15のイラストが迫ってくる感覚です。その下側の狭いスペースにコスキー氏の解説がありました。そして、この手順はGeniiの読者のために天海がスケッチと共にジェラルド・コスキーへたくしたものであることが、追記として記載されていました。

Genii誌と天海氏との結びつきは1936年9月の創刊当時からありました。この号には編集者のウイリアム・ラーセン宅でのマジックの会合の記事が掲載され、天海がオリジナルなシガレットの演技をしたことが報告されています。そして、その年の11月号で天海が”Glass Leviation”を解説し、1937年8月にも「メンタルカードトリック」を発表されていました。その後は戦争があり、1953年にはラーセン氏が死亡し、奥様が1957年まで引き継ぎ、その後は息子のビル・ラーセン氏が継ぐことになります。天海氏が帰国する1958年の3月号は「天海特集号」とされ、マジックとしては2作品が解説されています。そして、今回の作品が1959年12月に掲載されました。その後のGenii誌への掲載で興味深いことが、1965年、1967年、1969年、1971年の奇数年に1作品ずつ解説されていたことです。

(お詫び)第5回「天海ピンチと天海ペニーの混乱の歴史経過」の記事について
この記事を読まれて奇妙に思われた方が多いと思います。何かのトラブルで原稿が本来の状態ではなくなっていました。今回、元の原稿を掲載し直しましたので、ご一読頂ければ幸いです。

(2022年2月8日)

参考文献

1937 Tenkai The Sphinx 8月 Silk’s from the Air
1959 Tenkai Genii誌12月号 Surprise Silk And Billiard Ball Production
1971 フロタ・マサトシ The Thoughts of Tenkai シルク・プロダクション
1974 Kosky & Furst The Magic of Tenkai Production of Several Silks
1974 同上 Surprise Silk And Billiard Ball Production

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