マジックの練習について、私の考察 第8回

加藤英夫

目次

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参考資料
= ヘニング・ネルムス著 “Magic & Showmanship” より =

これは私自身の研究のためにヘニング・ネルムスの”Magic & Showmanship”中の、ステージングに関する部分を翻訳したものの一部です。図の文章が英語のままですが、そのまま収録しておきます。参考にしてください。

拍手

マジシャンというものは、えてして得られる拍手を投げ出しています。拍手の大きさというものは、彼のマジックのクオリティと同じぐらい、拍手の取り方のテクニックにかかっています。拍手をうながす方法もあれば、拍手を止める方法もあるのです。それらを観客の気持ちの流れと反対に用いたとしたら最悪の結果になります。

最初に考えるべきことは、演技のどこが拍手の起きるポイントか、ということを認識することです。少なくとも世の中の半分のマジシャンはこのことを意識していません。拍手してもらうところかどうかを認識していなければ、観客にそれを決めろというのでしょうか。

ちょっとしたことにもいちいち拍手させていると、そのうち観客は拍手するのに疲れてきて、肝心のクライマックスでも、おざなりの拍手にしかならないということになります。また、早まった拍手というのも、もそのつぎにくる真のクライマックスへの拍手を低下させるものです。

拍手というものは、わざとさせないように抑えておいて、拍手をしたいという気持ちを高めさせるのです。いちいち小さな拍手で喜ぶのではなく、大きな拍手で大きなバウをとって終わるのがよいのです。

いちいち小さい現象で拍手をとろうとしてはいけません。現象が起きたら、その現象がはっきりわかるだけの、最低限の間をとったらすぐにつぎの演技に入ります。しゃべる演技であれば、その間に一言しゃべるのもよいでしょう。

そうすることによって、拍手を抑えられます。しゃべらない演技なら、動きを続けて、観客の方を見ないようにして、ある特定の意志を持った動作、たとえば、つぎの演技のための道具を取るためにテーブルに向かうなど、つぎのマジックをやろうとしていて、拍手をするようなところでないことを示すのです。

拍手を得るためのテクニックは、まずクライマックスの時間の直前から始まります。図188のAの部分です。その部分では、いまクライマックスに近づきつつあるという感じを出すのです。それは見せているマジックや、あなたのスタイルによって違いますが、少なくとも、あなたがこれからすごいことを起こるという意識を持っていれば、無意識のうちにそのことが観客に伝わるのです。クライマックスの直前で止まり、心の中で「one」と数えます。観客はそれがクライマックスに到達したことのサインとなります。そしてクライマックスを見せたら、また止めて、「one」と心の中で唱えます。この’間’をとっているときは、マジシャンもアシスタントも動いたり、音をたててはいけません。顔をまっすぐ観客の方に向けて、観客の方にサインを送るのです。

このサインは、ウォンドを振るとか、小さなバウとか、急ににっこりするとか、小さなものでかまいません。それらは手順が完了して、拍手をもらえたら嬉しいですよ、という感じを醸し出します。それはまるで指揮者が指揮棒を振り下ろしたのと同じように、同時に観客の拍手を引き起こします。ばらばらに始まった拍手というものは、けして大きな拍手にはなりません。

このテクニックが重要であることの証明が必要なら、あなたの仲間のマジシャンを観察することです。拍手をとるのが下手なマジシャンがいるはずです。観客が拍手をすべきか、それともまだ続きを見守るべきか迷うと、彼らはどちらもしません。マジシャンは、「ここでは普通は拍手があるんですよ」などと言ったりしますが、このセリフは言い訳にしか聞こえません。

拍手というものは、自然に鳴りやむまで待ってはいけません。拍手が低下しだしたら、それはもう拍手する気持ちが衰えた証拠ですから、下がり始めたら、あえて拍手を止める方法をとります。それには、観客とは違う方向を向いたり、つぎのマジックに移ろうとしているというサインを送るのです。しゃべって演技しているときは、その時点をみはからってしゃべり始めます。拍手に負けまいとして、大きな声でしゃべってはいけません。最初はよく聞こえなくても、わざと普通の音量でしゃべるのです。すると観客はあなたの言っていることを聞こうとして、拍手が止まります。しゃべり初めの部分は、拍手がかぶって聞き取りにくいですから、その部分で大切なことをしゃべってはなりません。

拍手をスタートさせる、拍手を終わらせる、というタイミングを体得するのは時間がかかるかもしれませんが、いったマスターすれば、下手なマジシャンが大きなマジックから得られる拍手よりも、あなたは小さなマジックから大きな拍手を得られるようになるでしょう。

バウ

バウについて語るだけでも、1冊のアートの本になってしまいますので、ここでは基本になることだけを述べますが、それだけでも十分役に立つと思います。

観客にまっすぐ向いて、小さくおじぎをします。しかし視線は観客に向けたままです。観客は、あなたの視線が彼らの方に向いていた方が、拍手をする傾向があります。もしも拍手が1回のバウでやまなければ、2回目は左へ、3回目は右にバウをとります。

最初のバウを拍手のサインとして使うとしたら、心の中で、「皆さんにお楽しみいただけましたように」と思ってください。この無言のセリフが、顔の表情に現れるのです。それ以外には、無意識のうちに体の動きに現れるかもしれません。2回目と3回目は、「有り難う、有り難う」と心の中で言います。声を出してもかまいません。ただし、拍手が起こるまえに、「有り難う」と言ってはなりません。

拍手が大きかった場合には、腰から曲げる大きなバウをとります。この場合には、必ずわかるように「有り難う」といいましょう。拍手が続いたら、やはり左と右に「有り難う」を言いながらバウをとります。

アクトの途中でも、3回バウをとっても拍手が止まらない場合もありますが、3回より多くバウをとってはいけません。たいてい3回目には拍手は下がり始めていますから、あえてそこで止めるのです。あなたのアクトの最後でなら、拍手が盛り上がっているうちは、あえて自分から止めることはありません。

私がショーマンシップについてレクチャーをしたときに受けたいくつかの質問からすると、多くのマジシャンがアシスタントとともにカーテンコールを受けるやり方を学んだことがないように思われます。その秘訣は、図189のフットワークにあります。

ヴォードビルのショーマンは、拍手を絞り出す数々のテクニックを編み出しました。その手法のいくつかは、彼らのアクト以上に巧妙なものです。エキスパートともなれば、同じアクトで2倍の拍手を得ることができます。そして雇い主がショーマンを評価するのは、観客の拍手の大きさからなのです。

拍手を絞り出すテクニックの秘密は、拍手が下がりかけたその一瞬に、思いがけないことをやることにあります。このテクニックは、”キッカー”と呼ばれていて、拍手をもういちど盛り上げる手法です。巧妙なキッカーを使えればベストですが、何も特別なことをやらなくても、突然にっこり笑ったり、首をかしげて見せるだけでも、それが適切なものであれば、キッカーの代わりになります。

恐らく、キッカーのベストな例は、”ウォークオフ”でしょう。アクトが終わりました。観客見るべきものはもうありません。そこでひとつ何か面白いことをやって、観客が笑っているうちにステージから立ち去るのです。これは、カーテンコールを起こしやすいやり方です。

(つづく)